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当社は、これまでの豊富な取り扱い経験を基に、さまざまな肥料に関する専門的な情報を集約いたしました。
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硝燐安

硝燐安は、硝安(硝酸アンモニウム)とMAP(りん酸一安)を原料にして溶融造粒法(プリリングタワー造粒法)で造粒された高度化成肥料である。一粒に硝酸態窒素、アンモニア態窒素と可溶性りん酸、水溶性りん酸を含有する。高濃度の硝酸態窒素を含んでいるため、速効性があり、畑作物、特に葉菜類の基肥と追肥に適している。

 

1.種類、原料、製造法、成分と性質

弊社が輸入販売している硝燐安は窒素とりん酸の配合比率によって、3種類が肥料登録されているが、原料硝安は危険物に指定され、その危険性を減らして、硝燐安を普通物として取り扱うため、現時点では硝燐安2号しか輸入販売していない。

硝燐安の原料は硝安(硝酸アンモニウム)とMAP(りん酸一安)である。硝燐安2号は硝安とMAPの配合比率は約7030である。

硝燐安の製造工程は、まず、硝安を175190℃に加熱して融かしてから、MAP粉末を硝安溶融液に添加し、均一に攪拌して硝安とMAPの懸濁液にする。その懸濁液を造粒タワー頂部に設置されているノズルから噴射させ、液滴が落下する途中で冷却され、球状の粒子となる。

製造された硝燐安は粒径23mmの白色~灰白色の無臭球状粒子で、吸湿性がやや高く、水によく溶け、溶解度>150g/L20℃)、水溶液のpH5.07.0、弱酸性を呈する。成分含有量は窒素全量26%、そのうち硝酸態窒素11.5%、アンモニア態窒素14.0%、可溶性りん酸7.5%、そのうち水溶性りん酸5.5%。

硝燐安は硝安とMAPを原料とするもので、固結しやすい特性があり、固結防止材(タルクなど)を添加している。

2.用途

硝酸態窒素とアンモニア態窒素、りん酸を含有する硝燐安は基肥と追肥として、畑作物などに直接施用することができる。また、粒状の塩化加里または硫酸加里などを追加して、混合すれば、簡単にBB配合肥料を製造することができる。水溶液は弱酸性で、化学的に酸性肥料に属するが、施用後、窒素とリン酸が吸収されてから残留成分がほとんどないので、生理的中性肥料に分類される。

硝酸態窒素とアンモニア態窒素、水溶性りん酸が速効性を有し、畑作物、特に葉菜類の追肥には最適である。

一方、硝酸態窒素が含まれているので、土壌コロイド粒子に吸着せず、灌漑水や雨水に連れて流失されやすい。従って、水田作物の肥料としては不適である。

3.施用後土壌中の挙動

硝燐安に使用されている原料は水溶性のものである。施用後、土壌溶液にすぐ溶けて、養分を放出する。養分の放出速度は土壌水分に大きく影響される。一部可溶性りん酸は土壌水分に溶解せず、作物の根から出した根酸または土壌有機質分解時に発生した有機酸により溶解し、養分を放出する。

肥料粒子から溶出された硝酸イオン、アンモニアイオン、りん酸イオンが粒子の周辺に養分の飽和土壌溶液のクラスターを形成する。その後各養分が濃度勾配により周辺の土壌溶液へ拡散し、作物に吸収される。養分濃度が高いため、拡散速度は速い。各養分の動きは養分種類によって異なる。

硝酸態窒素は溶解後放出した硝酸イオンがすぐ作物に吸収利用される。したがって、施用24日後に窒素養分の肥料効果が見られる。アンモニアイオンは水稲など一部の水生植物により直接吸収されるが、多くの畑作物が少量のアンモニアイオンしか直接に吸収できず、土壌微生物による硝化作用を経て、硝酸イオンに変化してから作物に吸収される。

溶解後放出したりん酸イオンが作物に吸収され、その肥効は施用34日後に出現する。通常、吸収しきれないりん酸イオンは土壌粘土鉱物から溶出した活性鉄イオンとアルミニウムイオンと結合し、難溶性のりん酸鉄とりん酸アルミニウムを生成して沈殿することが多い。特に鉄とアルミニウムの多い強酸性の熱帯と亜熱帯の赤土やアルミニウムの多い日本の黒ぼく土ではりん酸の不溶化率が高い。ただし、硝燐安ではりん酸イオンが一緒に存在するアンモニアイオンの影響で、粘土鉱物からの鉄とアルミニウム溶出量と溶出速度がある程度抑えられ、土壌固定にかかる期間が長くなる。したがって、硝燐安の土壌りん酸固定速度が過りん酸石灰や重過りん酸石灰より遅く、りん酸養分の利用率が若干高くなる。

硝燐安に含まれている養分はほとんど水溶性で、速効性を有するが、肥効持続期間はやや短い。養分含有量が高く、溶解性が非常に良いため、過量施用した場合は土壌ECと浸透圧を速く上昇させて、作物根系の養水分の吸収を阻害するいわゆる濃度障害を引き起すことがある。

 

4.施用上の注意事項

硝燐安は施用上の禁忌事項が下記の通りである。

  1. 畑作物の肥料として使用し、水田での施用を避ける
    高濃度の硝酸態窒素を有し、灌漑や降雨で流されやすい。水田に施用する場合は硝酸態窒素の流失により、肥料利用率の低下と環境汚染を引き起こす恐れがある。
  2. 石灰、草木灰などアルカリ性肥料との混合を避ける
    アンモニア態窒素を含んで、アルカリ性物質と接触すると化学反応が起き、アンモニアガスを放出し揮散する恐れがある。
  3. 基肥の場合は側条深層施肥か下層施肥にする
    りん酸の土壌固定とアンモニアガスの揮散を減らすとともに作物根系との接触を増やすため、基肥として施用する場合は側条深層施肥または下層施肥にする。側条深層施肥とは肥料を作土の表層に出ないように畑の畦に沿って作物株の近くに溝を掘って、肥料を溝に施用してから覆土する施肥方法である。下層施肥とは作土にやや深い穴または溝を掘り、肥料を施用してから薄く覆土してその上に播種や定植する方法である。
  4. 追肥の場合は側条表層施肥または側条深層施肥
    りん酸の土壌固定とアンモニアガスの揮散を減らすために側条施肥が有効である。
  5. 降雨前に施用しない。施用後すぐ灌漑しない
    養分がほとんど水溶性のもので、施用後の灌漑または降雨により、養分が水に流される可能性があり、肥料効果が下がるだけではなく、水質汚染の原因にもなる。